舞台はアテルイ 「火焔」-「まほろばの疾風」

アテルイの小説2編を読んだ。
jajamen氏経由でzousigaya氏からお借りした「火焔」は大河ドラマ「炎立つ」の原作者高橋克彦さんの作。
方や上さんが西部公民館の図書室から借りてきた「まほろばの疾風」は「邂逅の森」で山本周五郎賞と直木賞を2ついっぺんにとってしまった熊谷達也さんの作。
どっちもすっげー面白かった。

実はその後、今僕は熊谷さんの本に嵌っているのだけど、それはまた後の話として、
この2作は、1200年前に大和朝廷と戦った蝦夷の大将アテルイの話。
同じ舞台であるにも関わらず、創造世界の違いの大きさが面白い。

高橋さんは、中央に蔑まれる蝦夷の「誇り」に重点が置かれ、大軍勢で迫る朝廷を、華麗なまでの戦術で撃破してみせる。そしてそのテーマはアテルイの壮絶な最後に至まで一貫してゆるぎない。また両作品で重要な役割をしている「モレ」がこの火焔においては優秀な参謀役としてアテルイを支える。

一方の熊谷さんも、虐げられ「獣」扱いされる蝦夷の誇りのために朝廷との戦いに挑むのだが、こちらのアテルイには高橋さんほどの勇猛果敢な姿はない。と言うか悩み決断を下せないながらも、少年から青年へ成長する一人の男として描かれている。そしてこちらの「モレ」はなんと巫女。とても魅力的に描かれた女性で、生涯アテルイの心の拠り所、ブナの森の精のような存在だ。
アテルイは悩む、蝦夷をまとめて朝廷を退け、例え蝦夷の国を作ることが出来たとして、狩猟採集を糧として山の神と共に生きる蝦夷本来の生活も、国造り(=民を養う)にはもはや森を切り開いて田畑を耕す稲作生活への移行は避けられない。だとすれば大和の国と何が違うのだろう・・・。

高橋さんのテーマは明瞭でブレがない。かつ俯瞰的視点から書かれていてとても読みやすく、テンポがいいためなかなか途中で栞を挟めない。
熊谷さんはそれが特長なのだと思うけど、様々なテーマが折り重なり、かつ視点が森の中を彷徨う。
彷徨って時々道に迷ってしまいそうだが、彼のテーマは実は終始一貫している。

マタギや海女など、常に自然の中で生きて死ぬ人間を題材にする熊谷さんの作品は
肉や魚を切り身でしか扱えなくなってしまった現在の我々にも、未だわずかに潜んでいる太古の狩猟遺伝子を刺激させブルブルと奮わせる力がある。
自然保護とか、環境問題だとかそんな話しでは多分ないのだと思う。
人間として、植物だろうが動物だろうが、人は他の命を奪うことで生きている。
なのに今の我々は普通命に対して自ら手は染めない。それで本当に「いただきます!」って言えている?
そんな事を考えて見みると、少し唐突に思えたアテルイ最後の行動も、なるほど「獣同等の蝦夷」がそのものとして帝に立ち向かう事に意味があったのだ。
と合点した。

小説として読み物としての完成度は「火焔」にやや譲るとしても
森の中の描写など実に美しいと思った。
最初のアテルイとモレの出会いの部分なんかは、もっともっと長く読んでいたかったな~。
岩手県胆沢郡焼石山麓におけるダフニスとクロエの物語・・・いや、決してそこまでエロくはないのだけど・・・。
[PR]

by 888-morioka | 2009-03-12 20:18 | 音楽・読書 | Comments(2)