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「浄夜」 ・・・弦楽合奏が圧倒的に美しい・・・

音楽カテゴリ復活。

時期的にはもうちょっと前かな、9月下旬から10月のちょうど森のキノコが全盛の少し冷んやりしてきた頃って雰囲気、シェーンベルクの「浄められた夜」。1920年代のこの曲は、ものすごく乱暴な言い方をすると「メロディーのロマン派から響きの現代」への移行過程にある曲(本当に乱暴な言い方だけど)
だから、初めて聴いた時はメロディー追っかけようとして、なんだかさっぱり訳分からん曲だなと思った。そこからマーラーなんかにも慣れて、ふと聴き直し一気にはまり込んでしまった・・・
溢れる音量に何も考えず身を委ねると曲の持つ空気感雰囲気が伝わってきます。

ちょうど月夜の森、目もまだ慣れなくて一人所在ない。でもその空気の中に自分も自然に同化させようとしてみると、実は目や耳だけではない。自分にも自然の気配を感じ取る能力が備わっている事に気づきます。「気付いてみるとこんなにも世界って明るいんだ」みたいな雰囲気・・・
わっかんね~よね~、そんな説明じゃ。

作曲者シェーンベルクはリヒャルト・デーメルの同名詩に触発され、この名曲を書きました。
でも、下の訳、少し表現がきついな、「はらんでる」って・・・



二人の人間が冷え冷えとした枯れ木立の中を歩いている。
月は二人に足並をそろえ、彼らは空を見上げる。
月は高い樫の木立の上を通り過ぎてゆく。
天の光を曇らせる雲ひとつなく鋭く尖った影が光の中まで届いている。
女の声が言う。

私は子供をはらんでいる、あなたのではない子供を。
私は罪を抱えてあなたとともに歩いている。
私は自分に対して最もひどいことをした。
私は喜びなど信じていなかったが
それでも、生きることの意味と
母親としての喜びと務めを激しく求めていた。
そして身を震わせながら見知らぬ男の抱擁に
身を任せ、それで自分は祝福されたとさえ思った。
そして今、人生が私に復讐した。
私はあなたと出会ったのだ!女は歩き続ける、よろよろと。
彼女は上を見上げる、月は足並をそろえている。
彼女の暗い眼差しが光で満たされる。
男の声が言う。

あなたがはらんでいる子供が
あなたの魂の重荷となりませんように。
ごらんなさい、世界はどんなに明るく輝いていることか!
その輝きは私たちを光で包み込む。
あなたは私とともに冷たい湖の上をさまよっている。
だが、奥深い熱さが真っ赤な輝きとなって
あなたから私へ、私からあなたへと伝わってくる。
その熱さがあなたの子供を浄めるだろう。
そしてあなたはその子供を生むだろう、
私がこしらえた子供を。
あなたは私を輝きで浄め
私を子供にしたのだ。

男は女のしっかりした腰を両腕で抱える。
彼らの息が空気のような口づけの中で混じり合う。
二人の人間が真夜中の明るい夜の中を歩き続ける。

この曲、普段はカラヤン/ベルリンフィルの圧倒的な音量とレガートを駆使した音源で聴いているけど、カザルスホールでの安永徹率いる弦楽8重奏による演奏を手に汗握りながら聴いた(感じた)事もあった。
これは僕のコンサート歴の中でも最も印象深いもので、一人一人の奏者の弓遣い、息遣い、迫力がその場の空気をとても張り詰めたものにし、息苦しく、目が離せなく、そして聴衆の集中力も高い、換言すれば、その場の誰もの意識の中に最早「浄夜の響き」以外何もない空間となっていた。
そうした緊張感は演奏終了後、我々が拍手の前に、まずはため息を漏らすことで解消されるまで続いたほどであった。(本当にそんな感じだったよ。)
by 888-morioka | 2006-11-22 11:23 | 音楽・読書 | Comments(0)

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